今回は、厚生労働省による過労死や労災補償に関する最新情報と、精神障害の労災認定基準の見直しについてお伝えします。

~厚生労働省による過労死等の労災補償状況について~

厚生労働省は、過重な仕事によって発症した脳・心臓疾患や仕事による強いストレスによって発病した精神障害の状況を取りまとめています。令和4年度の「過労死等の労災補償状況」が公表されました。以下、ポイントをご紹介します。

【過労死等(脳・心臓疾患と精神障害)に関する請求件数と支給決定件数】

・請求件数は3,486件で、前年度比で387件増加しました。

・支給決定件数は904件で、前年度比で103件増加しました。

うち死亡・自殺(未遂を含む)件数は121件で、前年度比で15件減少しました。

【脳・心臓疾患に関する事案の労災補償状況】

・請求件数は803件で、前年度比で50件増加しました。

・死亡件数は218件で、前年度比で45件増加しました。

・支給決定件数は194件で、前年度比で22件増加しました。

うち死亡件数は54件で、前年度比で3件減少しました。

労災補償の支給決定件数では、「評価期間1か月」では「100時間以上~120時間未満」の25件が最も多く、「評価期間2~6か月における1か月平均」では「60時間以上~80時間未満」の45件が最も多かったです。

【精神障害に関する事案の労災補償状況】

・請求件数は2,683件で、前年度比で337件増加しました。

・未遂を含む自殺の件数は前年度比で12件増の183件でした。

・支給決定件数は710件で、前年度比で81件増加しました。

うち未遂を含む自殺の件数は前年度比で12件減少し、67件となりました。

時間外労働時間別の傾向では、「20時間未満」が87件で最も多く、次いで「100時間以上~120時間未満」が45件でした。

出来事別の傾向では、「上司等からのパワーハラスメント」が147件で最も多く、次いで「悲惨な事故や災害の体験・目撃」が89件、「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさ   せる出来事」が78件でした。

~報道と精神障害の労災認定基準に関する専門検討会の報告書~

報道では、精神障害に関する事案の支給決定(労災認定)の件数が増加していることや、その原因のトップがパワーハラスメントであることが話題となっています。厚生労働省は、「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」を設置し、令和5年7月4日に精神障害の労災認定基準に関する報告書をまとめて公表しました。以下、報告書のポイントです。

【業務による心理的負荷評価表の見直し】

具体的な出来事として、「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」(カスタマーハラスメント)や「感染症等の病気や事故の危険性が高い業務に従事した」などが追加されました。

心理的負荷の強度を「強」「中」「弱」に分類し、パワーハラスメントの6類型すべての具体例を明記しました。

【精神障害の悪化の業務起因性の見直し】

特別な出来事がない場合でも、悪化が患者の業務による強い心理的負荷によって引き起こされた場合には、悪化した部分について業務起因性を認めることができるよう見直されました。

【医学意見の収集方法の効率化】

以前は3名の専門医による合議で事案の決定が行われていましたが、変更により1名の意見でも事案の決定ができるようになりました。

これらの改正により、労働者が精神障害を発病した場合に適切な労災補償を受けることがより容易になりました。

また労働施策総合推進法に基づくSOGIに関するハラスメント防止も重要な取り組みとして注目されています。

~LGBTとSOGIについて~

(1)LGBT・LGBTQとは

性的指向としてのレズビアン(女性同性愛者)・ゲイ(男性同性愛者)・バイセクシュアル(両性愛者)と、性自認としてのトランスジェンダー(心と出生時の性別が一致しない人)の頭文字を取った言葉です。クエスチョニング(性のあり方を決めない人・決めたくない人)もいます。

(2)性的指向・性自認(SOGI)とは

恋愛感情または性的感情の対象となる性別についての指向のことを「性的指向(Sexual Orientation)」、自己の性別についての認識のことを「性自認(Gender Identity)」といいます。この頭文字であるSOGI(ソジ・ソギ)は、すべての人が持つものです。LGBTは当事者のみが対象で、SOGIはすべての人が持っている属性です。

男性に惹かれる人・女性に惹かれる人・どちらにも惹かれる人・どちらにも惹かれない人と、恋愛対象はすべての人それぞれです。また、「自分は男性(女性)」と思う人もいれば、「どちらでもない」「どちらでもある」と思う人もいます。身体的な性とSOGIの組み合わせは実に多様で、また、それぞれの性(身体・指向・自認)にはグラデーションがあり、時に揺れ動くものでもあります。

【労働施策総合推進法におけるSOGIとパワハラ防止】

労働施策総合推進法では、セクシャルハラスメント(セクハラ)防止のための均等法に加えて、職場でのパワーハラスメント(パワハラ)の6つのタイプが定義されていますが、SOGIに関連したパワハラの具体例として、以下の2項目が挙げられています。

◎精神的な攻撃(脅迫、名誉棄損、侮辱、ひどい暴言):相手の性的指向や性自認に対して侮辱的な発言や人格を否定するような行動。

◎個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること):労働者の性的指向や性自認、病歴、不妊治療などの個人情報を、了解を得ずに他の労働者に暴露する行為。

SOGIに関する言動や望まぬアウティング(他者に自身の性的指向や性自認を暴露されること)は、職場におけるパワハラの定義に該当する場合があります。SOGIに関する侮辱的な言動は、特定の相手だけではなく、周囲の誰かを傷つけます。自らのSOGIについて他者に伝える「カミングアウト」をしていない人がいることに留意しましょう。

すべての人々の人権を尊重し、自身を含めたSOGIに関する配慮と理解が大切です。

【まとめ】

これらの情報を通じて、労働環境の改善や多様性・包括性の重要性を認識し、働き手の健康と人権を守る取り組みが進められています。厚生労働省が公表した過労死等の労災補償状況や精神障害の労災認定基準の報告から明らかになったことは、労働環境による健康被害の深刻さです。

特に精神障害に関する労災認定の件数が増加し、その主な原因はパワーハラスメントであることが報道されています。労働者の心身の健康を守るためには、労働環境の改善やストレス管理、ハラスメント防止策の徹底が不可欠です。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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