今回は、厚生労働省から発表された「年収の壁・支援強化パッケージ」について詳しくご説明いたします。

このパッケージは、短時間労働者が直面する年収の制約に対処し、働く人々と企業の両方にメリットをもたらすものです。詳細をご紹介しましょう。

1. キャリアアップ助成金の新コース

106万円の壁への対応 [ キャリアアップ助成金の変更 ]

現在のキャリアアップ助成金がより充実し、新しい「社会保険適用時処遇改善コース」が導入されることになりました。この新しいコースは、短時間労働者にとって社会保険の適用による収入減少が課題となるケースに対応するために設計されています。このプログラムでは、労働者の手取り収入を増加させるために積極的に取り組む雇用主に対して、最大3年にわたる一定期間助成(労働者1人あたり最大50万円)を提供します。また、申請手続きも簡素化され、スムーズに受けられるようになります。

このコースの主な特徴は以下の通りです。

  • 複数年にわたる計画的な支援: 雇用主が収入増加策に取り組むために、最大3年間の助成を受けることができます。これにより、長期的なキャリアアップを支援します。
  • 収入増加への多くの選択肢: 収入増加策には賃金引上げ、所定労働時間の延長などが含まれます。さらに、社会保険の適用に伴う保険料の増加に対処するための「社会保険適用促進手当」も支給の対象として含まれています。
  • 簡素な支給申請手続き: 申請書類が簡素化され、雇用主にとって事務作業が軽減されるため、手続きは迅速に行えます。

新しいキャリアアップ助成金のコースは、2023年10月下旬に公布予定で、2023年10月1日から適用されます。つまりキャリアアップ計画書の変更届は例外的に後付け可能になると言われています。この変更により、いち早く収入向上に向けて努力するすべての雇用主と労働者がサポートを受けられるようになります。

2. 社会保険適用促進手当

新たに導入された「社会保険適用促進手当」は、被用者保険の適用を奨励し、労働者に追加の支援を提供するための制度です。以下に、対象者と手当の内容について詳しく説明いたします。

<対象者>

  • この手当の対象者は、被用者保険が適用されていなかった労働者で、新たに被用者保険の適用を受けることとなった従業員です。

<手当の内容>

  • 雇用主は、被用者保険の適用が新たになる労働者に対し、給与や賞与とは別に「社会保険適用促進手当」を支給できます。この手当の目的は、労働者の収入を増加させることを支援することで、新しい社会保険制度の適用に伴う収入の変動に対応します。

<手当の条件>

  • 社会保険適用促進手当に関しては、被用者保険の適用に伴う労働者本人負担分の保険料相当額を上限とします。この手当は、最大2年間にわたり、労働者の標準報酬月額や標準賞与額の算定から除外されます。

<標準報酬月額>

  • この手当の対象となる労働者は、標準報酬月額が104,000円以下の従業員です。標準報酬月額とは、通常の労働者の給与月額を指します。この金額を超えない労働者が社会保険適用促進手当を受ける資格があります。

<同一条件で働く他の労働者への適用>

  • 同一の条件で働く他の労働者にも同水準の手当を特例的に支給する場合には、同様の取り決めが適用され、公平な支援が提供されます。

3. 被扶養者認定の改善

被扶養者の認定基準の一つとして、「年収130万円未満であること」が挙げられています。今後、この被扶養者の認定基準がより柔軟になります。年収130万円未満であることを確認するために、雇用主が労働時間を延長するなど、一時的な収入の変動がある場合、これを簡単に認定できるよう、事業主がその旨を証明することが求められます。一時的な事情による変動に対する認定は、原則として同一の従業員について2回までとされており、柔軟性が確保されています。

4. 配偶者手当への対応

近年、企業における労使の話し合いで、配偶者手当の見直しについても注目されています。令和6年春の賃金見直しに向け、この配偶者手当の見直しに関する議論が行われ、中小企業を含む幅広い企業での見直しが進展することを促進するための一連の取り組みが行われています。

<見直し手順の明確化>

  • 企業において、配偶者手当の見直しを進めるため、わかりやすい手順を示すフローチャートなどの資料を作成し、公表することが計画されています。この手順が企業に提供されることで、配偶者手当の見直しプロセスが透明かつ簡便に行えるようサポートされるでしょう。

<セミナーと周知活動>

  • 配偶者手当の収入要件が就業調整の一因となっていること、さらには配偶者手当を支給している企業が減少の傾向にあることについて、各地域でセミナーが開催され、詳細にわたり説明が行われる予定です。さらに、中小企業団体などを通じて、これらの情報が広く周知されることで、企業が配偶者手当の見直しに向けて適切なステップを踏む助けとなります。

これらの政策の見据える先には、令和6年10月から予定されている、短時間労働者に対する社会保険(健康保険・厚生年金保険)の適用拡大があります。

現行の適用基準(令和4年10月~)

現在、正社員だけでなく、アルバイトやパートタイム労働者などの短時間労働者も、厚生年金保険の被保険者数が101人以上の企業で働いている場合、一定の条件を満たすと社会保険の被保険者となります。これらの条件は以下の通りです。

  1. 週の所定労働時間が20時間以上であること
  2. 雇用期間が2カ月を超えて見込まれること
  3. 賃金の月額が88,000円以上であること
  4. 学生でないこと

「厚生年金保険の被保険者数が101人以上の企業等」とは、法人事業所の場合は同一法人格に属する(法人番号が同一である)すべての適用事業所(厚生年金保険が適用されている事業所)の厚生年金保険の被保険者の総数が101人以上であること、個人事業所の場合は適用事業所ごとに使用される厚生年金保険の被保険者数の総数が常時100人を超える事業所であることを指します。

令和6年10月以降の適用基準

法改正に伴い、令和6年10月から短時間労働者に対する社会保険の適用基準が更に拡大されます。具体的には、現行では「厚生年金保険の被保険者数が101人以上の企業等」とされていますが、この基準が令和6年10月から「厚生年金保険の被保険者数が51人以上の企業等」と変更されます。つまり、令和6年10月からは、厚生年金保険の被保険者数が51人以上の企業で勤務する短時間労働者が、以下の条件を満たす場合に社会保険の被保険者となります。

「厚生年金保険の被保険者数が51人以上の企業等」とは、1年のうち6月間以上、適用事業所の厚生年金保険の被保険者(短時間労働者は含まない、共済組合員を含む)の総数が51人以上となる企業等を指します。

したがいまして、令和6年10月以降、社会保険の適用拡大により被保険者となる方を把握し、個人面談などで社会保険の加入メリットや希望によって労働時間を増やすなど働き方の見直しを検討することが重要です。

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