今回は年末年始にかけて、お問い合わせのあったテーマで「健康保険」に関連して2点ほどお伝えします。

 

まず最初に、社員がケガや病気で休職した際の社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料)について説明します。

休職時の社会保険料】

○私傷病休職とは

私傷病休職とは、社員がケガや病気などによって労働の提供が難しくなった場合などに、社員としての立場を維持しながら、一定の期間の労働義務を免除することです。したがって、雇用契約自体は休職期間中も維持されることとなります。

休職期間は、労働基準法上絶対に設けなければならないというものではありませんが、休職期間を設けていなければ、社員がケガや病気などになった場合、即時解雇が必要となることも想定されます。すなわち、休職期間とは、そういった事態を避ける解雇回避措置の側面も持っているため、設ける場合は休職期間をどれくらいにするか、休職を適用する条件とは何かなどを慎重に決めて就業規則に規定しておく必要があります。最近では、精神疾患を発症して休職するケースが非常に多くなっています。

休職期間中は、ノーワーク・ノーペイの原則によって給与の支払いは原則として必要ありません。

しかし、ここでよくある落とし穴です。休職期間中でも社会保険料は免除されませんので、従業員負担分・事業主負担分ともに社会保険料を納めなければなりません(※産前産後休業や育児休業の場合のみ社会保険料が免除される仕組みがありますが)、会社へ請求がされ続けるということです。

○休職期間中の社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料)について

上記で見たように、休職期間中でも社会保険料が免除されることはありませんので、保険者(その保険制度を管理・運営している組織)に納める必要があります。したがって、休職しているあるいはしていた社員から自己負担分を徴収する必要があります。休職期間中でも給与を支給する会社であれば、支給する都度社会保険料を控除すれば済みますが、そのような会社は極まれだと思います。一般的には休職期間中の給与の支給はないため、具体的には次の方法から選択して休職しているあるいはしていた社員から社会保険料を徴収することとなります。

 保険料徴収の方法
会社が立て替えて支払い、復職後に徴収する。(※1)
毎月休職している従業員に社会保険料に関する請求書を送付し、期限を定めて支払ってもらう。(※2)
復職後の賞与で相殺する。
退職金の支給対象であれば、退職金で相殺する。

※1 復職できないケースもあり、万が一社員が退職した場合は徴収が難しくなることからこの方法をとる場合は注意してください。

※2 ※1と同様復職できないケースも想定されることから、この方法も注意が必要です。

昨年末までは「休職中の社員が傷病手当金の支給対象であれば、傷病手当金を会社がいったん受領し、社会保険料を控除して社員に支払う」といった方法もご案内していたのですが、令和5年1月より傷病手当金の申請書式が変更になり、実質的に代理受領ができなくなりました。

会社としては、上表の2の方法をとるのが穏当といえます。このように休職している社員からの社会保険料の徴収はそれ自体労力がかかる煩わしい業務となることが予想されます。また、金銭の問題であることからもトラブルとなる可能性を含んでいますので、休職期間中の社会保険料の取扱いについては、あらかじめ就業規則に規定しておき、休職に入る社員には丁寧に説明して同意を得ておくことを忘れずに。また、現在の就業規則にこの取り扱いがないのであれば追記改訂をおすすめします。

休職期間を経ても残念ながら退職に至る場合も少なくありません。そこで次に健康保険の被保険者である社員が退職した場合の健康保険の任意継続についても説明しておきます。

【健康保険の任意継続】

○健康保険の被保険者である社員が退職した場合の選択肢

健康保険の被保険者である社員が退職した場合、退職後の健康保険制度への加入については次の3つの選択肢があります。

 1.健康保険の任意継続~退職時に所持していた保険証の発行元によって、住所地を管轄する協会けんぽの支部またはそれぞれの健康保険組合 

注)倒産・解雇・雇止めなどにより離職された方については、国民健康保険料(税)が軽減される場合があります。

 2.国民健康保険への加入~住民登録地の市区町村の国民健康保険担当窓口

注)ご家族等(被保険者)の健康保険の被扶養者となった場合は、保険料の支払いは必要ありませんが、傷病手当金は受給できません。

3.ご家族等(被保険者)の健康保険の被扶養者となる~ご家族等(被保険者)の勤務先を通しての手続きとなるためご家族等(被保険者)の勤務先

注)国民健康保険には、被扶養者の制度はありません。

○健康保険の任意継続について

健康保険の任意継続とは、被保険者であった者が申し出ることによって、退職時に加入していた健康保険について、資格喪失後も継続して被保険者となることができる制度です。任意継続被保険者となるには、次の条件をすべて満たさなければなりません。

① 資格喪失日の前日まで継続して2カ月以上被保険者であったこと

② 資格喪失日から20日以内に申し出ること

③ 船員保険や後期高齢者医療制度の被保険者でないこと

④ 初めて納付すべき保険料をその納付期日までに納付したこと

【添付書類について】

退職証明書写し、雇用保険被保険者証離職票写し、健康保険被保険者資格喪失届写し等の退職日が確認できる書類を添付すると、保険証の早期発行(1週間程度)が可能となります。添付がない場合は、日本年金機構から資格喪失記録の提供を受けた後の発行(2~3週間程度)となります。

任意継続被保険者になった場合は、原則として、在職中と同様の保険給付が受けられますが、退職日まで継続して1年以上被保険者であった方が、退職日時点で傷病手当金や出産手当金を受けているか、受ける条件を満たしている場合を除き、傷病手当金や出産手当金を受けることはできません。

任意継続被保険者の保険料は、退職等された時の標準報酬月額あるいは前年または前々年の9月30日における全被保険者の標準報酬月額を平均した額(協会けんぽの場合は現在30万円)のいずれか少ない額となります。しかしながら、退職前は、被保険者と事業主の折半で保険料を負担しましたが、任意継続被保険者については、負担してくれる事業主がいませんので全額自己負担となります。月々の保険料を納付書で納付する場合の納付期限は毎月10日(10日が土日・祝日の場合は翌営業日)とされており、期限までに納付されなかった場合は任意継続被保険者の資格を喪失することになります。

○保険料の安さで選ぶ場合

健康保険の任意継続も国民健康保険も健康保険の被扶養者も受けられる給付はほとんど同じです。となると保険料が安く済むことで選びたいというご希望を持たれる方も多くいると思います。このようなご希望がある場合は、協会けんぽあるいは健康保険組合および市区町村の国民健康保険の担当窓口でそれぞれの保険料を試算してもらってください。明確な保険料の金額が確認できるため、保険料の比較が容易となります。

まだまだ寒さも厳しく、コロナとインフルエンザのW疾患の脅威などと不安な時期が続きます。体調管理に十分留意し、なんとか元気に春を迎えたいと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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