さて来年度(2023年度)ですが、お伝えしなくてはならない改正事項として、4月1日施行の法改正の一つとして(労働基準法の改正)があります。

【中小企業における月60時間超の時間外労働に対する割増賃金の見直し】

これは、2010年4月施行済の『月60時間を超える時間外労働に係る割増賃金率が「50%以上」に引き上げ』について、来年4月1日以降は中小企業に対しても適用となるものです。この法改正は、2018年に成立したいわゆる働き方改革関連法に含まれていた内容です。該当企業においては給与計算における対応はもちろん、いくつか対応が必要となります。

【割増賃金率引き上げの注意点、深夜割増賃金率は75%に】

1ヶ月で60時間を超える時間外労働を、深夜(22:00~5:00)に行わせた場合、1ヶ月で60時間を超える時間外労働をしたときの割増賃金率50%に、深夜割増賃金率25%が加算され、75%になります。

75%もの割増賃金率が適用されると人件費の負担は大きく、深夜割増賃金が頻繁に発生する場合、根本的に時間外の削減等、働き方の対応が必要となります。

そして未払い賃金が発生した場合、労働基準法第119条に基づき、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金の対象となる可能性があります。この罰則は、企業だけでなく、場合によっては残業を命じた上司なども対象となることがあるので、要注意です。

従来通りで計算ミスにより残業代未払い等にならないよう、早めに対応をしておくことをお薦めします。

【割増賃金率とは】

そもそも割増賃金率は、労働基準法第37条に規定があります。同条は、時間外労働や休日労働、深夜労働に関する割増賃金について定める条文です。

今回、中小企業が引き上げの対象となっているのは「1ヶ月で60時間を超える時間外労働」なので、影響が出るのは、時間外労働の時間数が60時間を超えたところからになります。具体的に、計算方法を確認しておきましょう。

『例』

・時間単価 1,000円

・時間外労働時間 65時間

従来(引き上げ前)の場合

時間外手当は、以下のとおり81,250円となります。

・1,000円×65時間×1.25=81,250円

改正(引き上げ後)の場合

時間外手当は、以下のとおり82,500円となります。

・1,000円×60時間×1.25=75,000円

・1,000円× 5時間×1.25+0.25= 7,500円

・75,000円+7,500円=82,500円

このように、同じ時間外労働をしても時間外手当が増額になり、計算も複雑になります。さらに、1ヶ月で60時間を超える時間外労働が深夜労働の場合、75%の割増賃金率を適用する必要があるので、未払いを防ぐには時間外労働の実態を正確に把握しておくことが重要です。

【割増賃金率引き上げへの対応策】

『代替休暇』

代替休暇とは、1ヶ月で60時間を超える時間外労働をしたときに、超過分の割増賃金の支払いに代えて、有給休暇を付与できるという制度です。60時間超過分を対象にしますので、時間外労働の割増賃金分すべてが休暇に代えれると誤解されがちですが、超過分の賃金に限って代えるものですし、そもそも60時間を超えた分の通常の25%増しは必ず賃金で支払う必要があり、それを超過計算する分を代替休暇に換算する方法です。

代替休暇を取得できるようにするには、まずは労使協定の締結が必要です。労使協定で、代替休暇の算定方法や端数が出たときの取り扱い、代替休暇の単位、代替休暇の取得手続きや割増賃金の支払い日などを決めることになります。

代替休暇はあくまで「取得できる」だけで、実際に取得するかどうかの判断は、従業員にゆだねられることに注意が必要です。会社が強制的に付与するものではありませんし、通常の有給休暇のような時季変更権も認められません。また、代替休暇は、1ヶ月で60時間を超える時間外労働をした月から2ヶ月以内に、取得する必要があります。とはいえ、取得されなかったとしても割増賃金の支払い義務は消滅しませんので、その際は超過計算分を含めて金銭で支払う必要があります。

『労働時間の把握』

割増賃金率引き上げでトラブルが発生しないようにするには、これまで以上に、労働時間を正しく把握できるようにしておく必要があります。

労働時間が正しく把握できていないと、割増賃金の計算が正確にできなくなり、賃金未払いのトラブルにつながりやすくなるからです。

これまで中小企業では、時間外労働が1ヶ月に60時間を超えても超えなくても、時間単価に時間数と一律1.25の係数を乗じれば、時間外手当を算定できていました。しかし、2023年4月以降は、60時間を超えた分については乗じる係数が変わります。特に深夜労働の際は、管理も事務作業も影響が出るでしょう。

従業員の自己申告に任せず、タイムカードなどの客観的に時間が把握できるツールを導入することに加え、必ず時間数を正確に申告するよう、従業員やその上司への周知を徹底させましょう。

また効率的に状況を把握するためにも、勤怠管理システム活用を検討してみましょう。

勤怠管理システムを導入すると、時間外労働の状況が明確に可視化されることで、時間外労働の多い従業員への指導やフォロー・業務分担の調整がしやすくなるでしょう。

時間外労働を減らすには、何よりも現状を正確に把握することが大切です。

『就業規則』

就業規則の見直しも必要になります。次のような規定の追加の必要があるでしょう。

・1ヶ月で60時間を超える時間外労働の割増賃金率が50%であること

・1ヶ月で60時間を超える時間外労働が深夜労働である場合は、割増賃金率が75%であること

・1ヶ月で60時間を超える時間外労働で代替休暇を取得した部分については、割増賃金率が25%になること

上記のほかにも、代替休暇の取得方法など、必要に応じて追加する必要があります。早めに現行の就業規則の規定をチェックし、見直しを行っておきましょう。

割増賃金率引き上げによる負担を軽減するうえでも、従業員のワークライフバランスを改善するためにも、時間外労働を減らすことは大切です。そこで、ここでは、時間外労働を減らすためにすぐにも実行可能な取り組みをご紹介します。

『ノー残業デー』

ノー残業デーを設けることで、時間外労働を減らすことができます。ノー残業デーとは、企業側で、特定の日にちを残業しない定時で帰る日として、設定する取り組みのことです。例えば、「毎週水曜日はノー残業デー」「〇日と〇日はノー残業デー」などと、定めます。

ノー残業デーを定め、実際にその日は定時で帰るように周知徹底させ、定時で消灯するなど帰らざるを得ない雰囲気にすることで、付き合い残業などを減らす効果があります。

ノー残業デーは、「日にちだけ決めて実際には誰も帰らない」のように、形骸化しがちなことに注意が必要です。定時退社を評価項目に加えるなど、実践を後押しする仕組みづくりをしましょう。また顧客対応が多く、一斉に帰ることが難しい部署は交代制にするなど、現実的に実行できる制度設計をすることも大切です。

『事前申請制の導入』

時間外労働の事前申請制を導入することで、不必要な残業を抑制する効果があります。時間外をする際は、事前に、「どういう業務するために、どのくらいの時間残業するのか」申告させることで、ダラダラと職場に残ることができなくなるからです。

事前申請で残業する理由の説明が必要になれば、そもそも定時までにできるだけ仕事を終わらせるようにしよう、という意識につながります。その結果、生産性の向上も見込めるでしょう。

また、事前申請制を取り入れると、会社側で、「どの従業員が、どういう理由で、どの程度時間外労働をしているのか」を明確につかめるようになります。これにより、業務分担の偏りや人員配置を是正することも可能になるでしょう。

時間外労働を減らす以外にも、従業員のモチベーション向上や、得意分野の見極めができるなどメリットは多いので、この機会に導入を検討してみるとよいでしょう。

 コロナ禍中、寒さも厳しさを増しておりますので、くれぐれもお体にご留意のうえ、よい年をお迎えください。

 

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